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2.科学のルネサンス――コペルニクスからガリレオまで

概要

ヨーロッパにおける学問研究のあり方は、15世紀から16世紀にかけて大きく変化した。ギリシア語文献の研究によって、従来知られていなかった多くの思想・科学が再発見され、15世紀中頃に発明された活版印刷によって、知識の流通が勢いを増した。そうした知識の中には、「発見」された新大陸の情報なども含まれており、古代の文献は絶対的な権威を失っていった。このような時代状況の変化の一例は、コペルニクスによる地動説の提唱から、ケプラーによる惑星の楕円軌道の発見とガリレオによる望遠鏡での天体観測へと至る、宇宙論・天文学の「革命」において見ることができる。

ルネサンス期の科学

○人文主義と古代思想の再興(14世紀〜)

人文主義者(ヒューマニスト):大学外で、イタリア市民に広義の文学を説く

見失われていた古代の著作の再発見

万物のつながり

○活版印刷の出現と普及(15世紀中頃〜)

1450年頃、グーテンベルクによる活版印刷の導入
→ 1500年の時点で、ヨーロッパには千箇所以上の印刷所があった

学問研究へのインパクト

○新世界の「発見」(15世紀後半)
○書物の重視から経験の重視へ

古代の著作や大学の学問(スコラ哲学)への批判

○宮廷とパトロネージ

王侯貴族による学者や技芸家(技術者、職人、芸術家)の保護

宇宙論と天文学における「革命」

○古代・中世の宇宙論と天文学
○プトレマイオス天文学の復興

レギオモンタヌス、ローマでギリシア語の写本を研究
→ 『アルマゲスト要綱』(1460年代執筆、1496年出版)

『アルマゲスト』の初めての印刷出版
……ラテン語版1515年、ギリシア語版1538年

○コペルニクスの地動説と初期の反応

『天球の回転について』(1543年)

地動説と、常識的経験や従来学説との矛盾
……大地は動いていない/天上と地上の区別/恒星の視差が認められない

「メランヒトン・サークル」の天文学者たちによる受容

○ティコの観測、ケプラーの理論

ティコの天文観測(望遠鏡発明以前で最良)
……ヴェン島の巨大天文台 → のち、ルドルフ2世の宮廷(プラハ)へ

精密な観測がアリストテレス的宇宙論に疑問を投げかける
……新星の出現(1572年)、月より上にある彗星(1577年)

ケプラーはティコの観測データをもとに、惑星の運行を研究
→ 火星の軌道が楕円であることの発見(『新天文学』1609年)

コペルニクス体系を発展させた「天の自然学」の提唱

○ガリレオの天体観測と宗教裁判

自作の望遠鏡で宇宙を観察
→『星界の報告』(1610年):月の表面の凹凸、木星の4つの衛星

『二大世界体系についての対話』(通称『天文対話』、1632年)
……天動説と地動説を中立的に紹介する建前だが、後者を支持していると読める

ガリレオの宗教裁判(1633年)

Q&A

※準備中

読書案内

ルネサンス期の科学史への入門としては、ひとまず、ディア『知識と経験の革命』(みすず書房、2012年)の前半を読んでみるのがよいと思う(後半は次回の講座で取り上げる17世紀を扱っている)。Principe『科学革命』(丸善出版「サイエンス・パレット」、2014年)も最近の入門書として秀逸で、ディアの本と同じく、ルネサンス期と17世紀を一体的に解説している。近年の科学史研究では、15世紀後半から18世紀初頭あたりまでの時期を一括して「初期近代」(もしくは「近世」、early modern)と呼ぶことが多い。

魔術的側面を持ったルネサンス期の科学・思想を包括的に解説した本では、古典的なものとして、ディーバス『ルネサンスの自然観』(サイエンス社、1986年)がある。新しいところでは、「哲学の歴史」シリーズの第4巻『ルネサンス』(中央公論新社、2007年)所収の伊藤博明「総論」は、この時代の哲学史・思想史を概説する中で、自然科学にも触れている。同じく伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』(講談社学術文庫、2012年)は、15世紀イタリアの人文主義と、魔術や占星術を含むこの時代の科学思想について詳しい。エヴァンズ『魔術の帝国』(ちくま学芸文庫、2006年)は、プラハのルドルフ2世の宮廷における広義の科学を扱った専門書である。

この時代の精神史(インテレクチュアル・ヒストリー)は近年、ヒロ・ヒライ氏が研究者兼編集者として、研究と普及を精力的に進めている。狭義の科学史に関係するものとしては、『ミクロコスモス』(月曜社、2010年)所収のいくつかの論考や、菊地原洋平『パラケルススと魔術的ルネサンス』(勁草書房、2013年)などがある。

これらの知的側面を扱った文献に対し、山本義隆『十六世紀文化革命』全2巻(みすず書房、2007年)は、職人・技術者が科学の発展に大きく貢献したことを説いている。このような技術文化史的側面については、クロスビー『数量化革命』(紀伊国屋書店、2003年)も見るとよい。

活版印刷と書物については、カラー図版を多く含むブラセル『本の歴史』(創元社、1998年)が入門書として良いように思う(関連するのは第2章と第3章)。また、本がヨーロッパ文化に与えた影響を詳しく紹介した近年の著作として、ペティグリー『印刷という革命』(白水社、2015年)がある。アイゼンステイン『印刷革命』(みすず書房、1987年)はこのテーマを解説した古典で、特に第7章で「印刷と近代科学の興隆」を扱っている。

「本」ということでは、ギンガリッチ『誰も読まなかったコペルニクス』(早川書房、2005年)は、全世界の図書館を訪ねて現存するコペルニクスの本を調べるという壮大な調査研究の顛末を興味深く語ったもので、同時に、いわゆる「コペルニクス革命」についての一般向け解説になっている。ちなみに「コペルニクス革命」というのは、パラダイム論で知られるクーンの本の題名だが、この本の内容はすでに古くなっているため推奨しない。

いわゆる天動説から地動説への移行については、山本義隆『世界の見方の転換』全3巻(みすず書房、2014年)が詳細かつ広範な内容でありながら読みやすく、決定版と言ってよいだろう。また、高橋憲一訳・解説『コペルニクス・天球回転論』(みすず書房、1993年)にも、コペルニクスの著作の翻訳に加えて天文学史の詳しい解説があるほか、ウォーカー『望遠鏡以前の天文学』(恒星社厚生閣、2008年)所収のスワードロー「ルネサンスの天文学」では、レギオモンタヌスからケプラーまでの、第一人者による解説が読める。重要人物の一般向け伝記としては、「オックスフォード科学の肖像」シリーズ(大月書店)のマクラクラン『コペルニクス』(2008年)とヴォールケル『ケプラー』(2010年)を薦めたい。

ガリレオに関しては、天体観測と宗教裁判に関わるものだけ挙げておく。一般書も含めて多くの本が出ているが、前者については伊藤和行『ガリレオ』(中公新書、2013年)を、後者については田中一郎『ガリレオ裁判』(岩波新書、2015年)を読むのが入門としてベストである。なおガリレオ裁判に関しては、ファントリ『ガリレオ』(みすず書房、2010年)という分厚い専門書が日本語で読めることを付け加えておく。

2017/5/14作成;2017/5/14最終更新