演習(大学院ゼミ)の記録
【書評紹介】
Deborah R. Coen, The Earthquake Observers: Disaster Science from Lisbon to Richter. Chicago: University of Chicago Press, 2013.
今回は私の現在の研究関心に合わせて、地震という自然災害現象をめぐる人々という軸で文献を選ばせていただきました。本書が「長い19世紀」という時代背景のなかで、地震の観測という個々の活動のケーススタディから科学者(専門家)と大衆(非専門家)の分断が生じていく過程、特に前者が後者の活動に対して慎重な姿勢を取るようになっていくといった科学の社会史的(もしかしたら認識論的)側面に通ずるような指摘を導いている点は、本書の特筆すべき点であると改めて感じます。これを踏まえて、評者がさらに「リスク研究」に視野を広げて本書の内容を考察している点も含め、地震をめぐる人々の活動を歴史研究することの可能性を示唆されているようで奮起させられた思いがしました。
近年の著者の研究関心は気象観測をめぐる歴史の方に移っているようなので、本書では着目されていない日本やオーストリアの場合、本書の研究視角でどのようなことが導かれるのかについては現状他の研究者に残された課題として挙げられると思っています。【菱木】
【専門書講読】
ロレイン・ダストン&ピーター・ギャリソン『客観性』(名古屋大学出版会,2021年)より
- 「第2章 本性への忠誠」
《前半》客観性以前の「本性への忠誠」という科学者の規範について、図像を資料として用いて、その存在を説得的に論じていた。ゼミ内でも議論があったが、さらに視点を広げて、図像以外にもこの規範があったのかということが気になった。つまり観察以外の科学的方法、たとえば計算・説明・仮説形成などでも本性への忠誠があらわれていたのかということだ。もし図像制作以外でもこの規範が有効であったなら、科学全般に本性への忠誠があったといえるが、そうでないなら本性への忠誠は図像固有のローカルな規範に過ぎなくなる。【佐々木】
《後半》画家が見たままを写生することに対し、博物学者から評価されてこなかったことに考えさせられました。対象の図像は、理性にもとづき知性によって総合化され、典型(原型)化され、理想化されるという現在とは異なるものでした。同時にこれは西洋美術における風景画の中で写実的に描写された自然もまた、別の経緯で理想化されてきたことを想起させました。かつて両分野の図像の境界は曖昧だったのだと推測しています。【松山】