2022年7月14日

演習(大学院ゼミ)の記録

【専門書講読】

ロレイン・ダストン&ピーター・ギャリソン『客観性』(名古屋大学出版会,2021年)より

「第7章 表象から提示へ」

最終章です。前半で本書全体の議論のまとめと補足をおこなったあと、後半では、科学的図像における最近の特徴的変化を、主にナノテクノロジー分野の事例で論じています。従来の図像がいずれも、すでに存在する事物の”re-presentation”(表象、再提示)を目指していたのに対し、この分野では”presentation”(提示、プレゼン)になっているというのがその骨子ですが、かなり特殊な事例を論じているような印象は拭えません。私としては、最後のほうに出てくるシミュレーション図像の加工という論点をもっと掘り下げてほしかったと思います。また、表象と提示がいずれも「正しい描写」であるという主張の意味がきちんと説明されないところにも問題があるように感じます。ただ、これらはあくまでも今後の展望や課題について述べていると考えるなら、いま記したような点はむしろ、これから深めていくべき論点なのかもしれません。【有賀】

【研究発表】

「ストックホルムにおけるパブリックアート:地下鉄駅からの考察」

最初にアートとパブリックアートそれぞれにおける本研究での定義を示した。前半では、アメリカを中心としたパブリックアートの歴史と変遷を主な内容として扱い、後半では、研究対象であるストックホルム地下鉄のパブリックアートの歴史と作品数件を例にあげ、単なる美術作品の設置を超えて駅全体で作品を形成している点を伝えることができた。最後に関心事と全駅リストの作成など今後の研究課題に触れ、指標ができたと考えている。

発表後ゼミメンバーからは、作品をいかに定義づけて分類していくか明示する必要性や、日本のパブリックアートが都市政策のなかで展開された側面を提言され、ストックホルム地下鉄の作品において政策の影響が認められるかなど新たに検討すべき点が得られ、非常に有意義なプレゼンになった。【松山】