2023年5月29日

演習(大学院ゼミ)の記録

【専門書講読】

塚原東吾「帝国のローカル・サイエンティスト――気象学者・中村精男、小笠原和夫、藤原咲平」
『帝国日本の科学思想史』(勁草書房、2018年)第2章)

今回は「帝国日本の科学思想史シリーズ」のなかで、帝国日本の日本人気象学者あるいは気候学者として知られる3名(中村精男、小笠原和夫、藤原咲平)の活動と思想をそれぞれ取り上げることによって、「帝国日本のローカル・サイエンティスト」というこの時期の一つの科学者像を捉える試みが行なわれた章を選びました。特に、本章では気象学者3名それぞれの科学思想の背後にあるものに帝国日本という”時代性”を浮き彫りにするミクロ的な分析によって彼らの言説の「ハイブリッド性」を指摘すると同時に、欧米地域を向いた視線での「ローカル・サイエンス」に限らずアジアの被支配地域に向いた場合の「中心」でもあるという「サブ・エンパイアー理論」に基づくマクロ的な視野による検討が行われた点に着眼をおいて報告しました。本章では他にもいくつもの「科学と帝国主義」をめぐる理論について検討が行われており、それらを踏まえて最終的には気象学者3名が「帝国日本」あるいは「帝国主義国」のいずれの科学者としての代表性として体現され得るのかという点が、本章を読んだ上での議論のハイライトになったと思っています。本章のテーマは対象は異なっていても自身の研究課題においても重要な議論の一つと受け取り、今後も検討を続けていきたいと思います。【菱木】

【書評紹介】

Maia Wellington Gahtan and Eva-Maria Troelenberg (Eds.), Collecting and Empires: An Historical and Global Perspective. Turnhout: Brepols, 2019.

Review by Jessica Ratcliff, Isis 113 (2022): 647-648.

本書は世界の様々な場所・時代の事例をもとに、収集と帝国という主題にアプローチしたエッセイ集です。評者によれば、「科学における収集と芸術における収集の差異は何か」など、様々な論点を提示しています。アステカの収集やムガル帝国の収集など個別事例について読むだけでも面白そうですが、そこから帝国と収集の世界史・物質文化といったより大きな主題についての議論がどのように導き出されているのか気になりました。一度読んでみたい著作です。【澤井】

【研究発表】

「構造主義に潜む数学を見出す――レヴィ=ストロースを中心に」

構造主義というときの「構造」と数学的構造が等しいことを示したい旨の研究計画を発表しました。特にレヴィ=ストロースの親族研究と神話学に焦点を当て、カリエラ族の婚姻クラスと四元群の関係と、レヴィ=ストロースのcanonical formulaと呼ばれる謎の数式を取り上げました。また、質疑応答を行い、様々ある「構造」の特にどれを分析するのか、数学的構造が具体的に何を指すのかが曖昧、分野によっては「構造」=数学的構造にならない、レヴィ=ストロースと数学との関わりを掘り下げるとよいのでは、といった指摘を受けました。【宋】