2023年6月12日

演習(大学院ゼミ)の記録

【専門書講読】

一柳廣孝「千里眼は科学の分析対象たり得るか──心理学の境界線をめぐる闘争」
『明治・大正期の科学思想史』(勁草書房、2017年)第8章)

今回の講読書は、明治末年に起きた千里眼事件(御船千鶴子、長尾郁子らが透視、念写といった超能力を発揮するとして当時の学術状況を巻き込んで公開実験や論争を引き起こした一連の騒動)について、それを各分野の学者がどのように見ていたか、関わった福来がどのようにアカデミズムから排除されていったか、加えて当時の新聞がはたした役割はなんだったのかの3点を考えるものでした。

この騒動の中で福来は実験心理学のフレームから逸脱し、千里眼の証明を実験に基づいた判断では無く催眠術だとか超スピードだとか超常的なもののように解釈を始めてしまいます。筆者は千里眼のようなものを研究する時は「厳密な実験によってのみ保証される」ものだと繰り返し主張したとともに、この騒動が長引いた原因を新聞メディアによる助長に求めるのでした。

やはり私も超能力は我々の常識を「超」えるようなものであって欲しいとどこかで思っており、自分がもし実験をする立場でいるとしたら福来のように、すごいという感覚のみを信じ実験を疎かにしたかもしれません。ですが、やはり科学でのフレームの存在証明のためには守られるべき手立てがあります。科学的に処理することと超能力的に処理することのどちらが面白いのか意見は分かれるところだと思います(ただ超能力的なものを超能力だ!と主張することは根拠が全く無くてもできてしまう)。その中に文学的視野が入るとやはり福来に寄ってしまうのでしょうか。哲学者がやんわり福来を擁護したところに一抹の不安を覚えました。【西原】

【書評紹介】

Stephen Cave, Kanta Dihal and Sarah Dillon (eds.), AI Narratives: A History of Imaginative Thinking about Intelligent Machines. Oxford: Oxford University Press, 2020.

Review by Sam Schirvar, Isis 113 (2022): 167-169.

ChatGPTと人工知能の各分野での発展に伴い、AIというトピックが次第に注目を集めています。この本では、古代ギリシャから現代までの知能機械についての人々の想像と叙述を振り返ります。評者が指摘するように、この本の編集者は現代の計算型人工知能と古代の知能機械を同じ文脈で議論していますが、この本は読者に新たな視点で人工知能を見る機会を提供しています。人々がかつて知能機械に対する想像は、現在、人々がどのように人工知能を使用し、どのように人工知能と共存し、そしてどのように人工知能がもたらす社会・倫理的問題に直面するかを考えるための一定の啓示を提供すると思います。【徐】

【研究発表】

「「温泉医学」を巡る社会の動向――「代替医学」の意義と社会の中で果たす役割に着目して」

「『温泉医学』を巡る社会の動向ー『代替医学』の意義と社会の中で果たす役割に着目してー」をテーマとして、研究内容を発表させて頂きました。課題として、歴史学というよりは科学技術社会論的な文脈に終始している印象の報告となった部分があり、事実歴史上のどの年代を対象とするかが不明瞭でした。そのため、改めて「高度経済成長期日本」における、医学を巡る人々の動向に焦点を当て、時代考証と研究史整理に取り組みたいです。【工藤】