2024年10月28日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

Daniel Akselrad, “Visions of Control: The Head-Up Display, Perceptual Labor, and a Lesson for Augmented Reality.” Technology and Culture 64 (2023): 761-789.

この論文は、拡張現実(AR)の理解を深めるため、見落とされがちだが重要な先駆的技術であるHUDに焦点を当て、その歴史と影響について論じています。パイロットがHUDに依存することで異なる情報を自主的に統合する能力が制限され、重要な意思決定に悪影響を及ぼすことが明らかになりました。著者は、この隔離的な知覚経験がARにも引き継がれ、ユーザーが単一のデバイスや情報に依存しやすくなるリスクを指摘しています。「知覚労働」理論に基づき、視覚を介した知覚労働がユーザーの自律性に与える影響を示し、ARが意思決定に関して新たな課題を引き起こす可能性を提起します。

過去の技術革新の歴史とその影響を探ることで、新技術に伴うリスクを考察するのは面白いと考えます。また、口述歴史は話し手の主観が入りやすいため、客観的な文献と併用することで、研究対象はより立体的で豊かなものになると思います。【王】

【書評紹介】

Uri M. Kupferschmidt, The Diffusion of “Small” Western Technologies in the Middle East: Invention, Use and Need in the 19th and 20th Centuries. Berlin: De Gruyter Oldenbourg, 2023.

Review by Leor Halevi, Technology and Culture 65 (2024): 996–997.

本書は西洋から中東の都市に伝搬した技術について述べられている。取り上げられた技術は鉄道やダムなど巨大な事業にかかわる巨大な技術ではなく、眼鏡やミシン、タイプライターやピアノなど人々の日常に根差した消費財にかかわる「小さな」技術である。著者はこれらのうち中東の都市で普及したもの、逆に文化的に受け入れられにくかったものについてそれぞれ考察している。これに対して評者は、著者が選んだ事例について、どのような基準で選んだのかが不明であると批判した。また西洋から伝播した消費財であっても、ルーツや素材は必ずしも西洋由来ではない場合があることを指摘し、結局それらが西洋の技術であるとどの程度言えるのかに関しても考察の余地があると指摘している。

筆者の感想としては、著者はピアノに関して文化的要因により中東では普及しにくかった消費財として扱っているようだが、日本でも古くから親しまれた音階が西洋のものとは異なる同様の課題はあったにもかかわらず、明治以降ピアノを積極的に受け入れた経緯がある。よって今後、中東と日本におけるピアノの受容の相違について比較してみたい。【神村】

【研究発表】

「内丹の発想について」

中国古代の養生術は、なぜ内丹として外丹と対比され、錬丹術の2つの形式を成していったのか、というメインリサーチクエスチョンについて研究発表を行いました。分析のため「丹」の語に着目し、内丹発展の各時代から数篇のテキストを選定して、その用法や意味の変化を調べる予定です。【宋】