2024年11月25日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

Joy Yueyue Zhang, “The ‘Credibility Paradox’ in China’s Science Communication: Views from Scientific Practitioners,” Public Understanding of Science 24 (2015): 913927.

中国の科学技術コミュニケーションにおいて、過剰に政治化された社会環境で発生する「信頼性のパラドックス」という現象に着目した点が本論文の特徴です。権威的な科学技術コミュニケーションが信頼性を失い、民衆がむしろ民間的な形式で展開された科学技術コミュニケーションに関与するという著者の解釈には、非常に納得させられました。また、著者は現在の中国における科学者の科学技術コミュニケーション活動を分析し、「市民的認識論」が権威主義的社会において持つ影響力について議論を展開しています。私の修士論文のテーマは、インターネット上の中国の科学コミュニケーションの現状ですが、このような論文は参考になると感じました。【徐】

【書評紹介】

Nicholas K. Menzies, Ordering the Myriad Things: From Traditional Knowledge to Scientific Botany in China. Seattle: University of Washington Press, 2021.

Review by Sooyoung An, Isis 114 (2023): 447–449.

本書は中国における西洋近代植物学の導入をテーマとした書籍です。私自身が以前、日本の明治期について同様の研究をしたことがあるので、それとの比較という観点から興味を持ちました。ただ、参照した書評は、伝統と新たな知識との関連や、近代の中国の科学を対象とした歴史研究の重要性など、一般的な論点のほうに力点が置かれていて、受容の過程そのものは詳しく紹介されていませんでした。本の目次を見ると、植物画や博覧会といった主題も扱われているようなので、実際に読んでみたいと思います。【有賀】

【研究発表】

「技術者と技術書:全国ピアノ技術者協会による翻訳事業」

今回の研究発表では、全国ピアノ技術者協会の主要事業の一つである「技術書の翻訳」に焦点を当てて発表しました。海外でピアノの技術書がどのような文脈から登場したのか、ドイツとイギリスの例を挙げ、その中で日本で初めて翻訳する文献として選ばれたピアノの技術書にはどのような特徴がみられたのかを明らかにしました。また、翻訳事業を始めるきっかけとなった研究会を詳しくみると、立場の異なる技術者や企業が「国産ピアノの質の向上」という課題を共有し協力した事業としてもこの翻訳事業は捉えることができました。しかし、1935年に技術書を翻訳したことがその後の日本のピアノ産業にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにすることはできておらず、今後の課題とします。【神村】