『科学史研究』誌からの依頼を受けて寄稿した書評が、最新号(2024年10月)に掲載されました。対象書籍は、馬渕浩一『日本工業博物館史の研究』(大空社出版、2023年)です。
この本は、「明治以降、幾度となく提案されてきた日本の工業博物館設立計画を歴史的に検討し、未だ設立に至らない原因を探ろうとするもの」とされています(同書1頁)。この意味で、第一義的には博物館史、あるいは広く博物館学の研究書と言えますが、雑誌は『科学史研究』なので、書評ではこの本の科学技術史的な側面に重点を置いて書きました。ひとことで言うと、「本書の大きな意義は、博物館が近代日本の科学技術史の研究対象になることを具体的に示して見せた点にあるだろう」(書評本文より)というのが私の評価になります。
他方で、これは書評には書かなかったことですが、科学や技術に関わるモノをコレクションとして保存・活用するという意味での科学技術博物館(本書でいう工業博物版館とおおむね同じ)が日本で定着していないという状況は、そう簡単に変わるものではないだろうとも思います。そもそも何をどのように収集、保存、活用するのかといった基本的なところから考えていくことと、何らかの運動によってその種の博物館を制度的に成り立たせていくことが、どちらも不可欠であるように感じます。