2022年5月26日

演習(大学院ゼミ)の記録

【書評紹介】

Bruce J. Hunt, Imperial Science: Cable Telegraphy and Electrical Physics in the Victorian British Empire. Cambridge: Cambridge University Press, 2021.

19世紀後半のイギリスにおける電磁気学と電信技術を包括的に記述する本で、カードウェルの『蒸気機関からエントロピーへ』を思い起こさせます。科学史と技術史、理学と工学の歴史をつなぐ待望の1冊ではないでしょうか。【有賀】

【専門書講読】

橋本毅彦『描かれた技術 科学のかたち:サイエンス・イコノロジーの世界』(東京大学出版会,2008)より

  • 「工芸の描写」「音の模様」

「工芸の描写」では、報告書に使われる挿絵であっても写真が存在しない時代、読者や社会に与える影響は少なからずあるのだと考えさせられました。また、『百科全書』と『工芸と産業の記述』は初刊行と最終刊行がそれぞれ10年程度前後していますが、18世紀後半、既に時代遅れに感じられる長さだったのだと驚きました。これも近代化がもたらした副産物ではないでしょうか。

「音の模様」では、クラドニの図形の幾何学模様の166パターンや生み出す条件が記述された図と物理学者クラドニの功績への評価が紹介されてました。彼は、各国で実演と自身が発明した楽器を演奏することで、科学と芸術を融合した一つのモデルを形成したのだと考えられます。【松山】

  • 「精気の噴水」「青の細菌」

「精気の噴水」では、デカルト『人間論』の議論が紹介されており、アナロジーを多用する点がその議論の大きな特徴でした(タイトルにもある噴水は神経管とのアナロジーで登場しました)。

「青の細菌」では、細菌学の父コッホが観察技術というものをどのように捉えていたかが紹介されており、写真撮影後の加工を戒めつつ、細菌を青く染色するような加工を認めるコッホの方法論は興味深いものでした。【村山】

ロレイン・ダストン&ピーター・ギャリソン『客観性』(名古屋大学出版会,2021年)より

  • 「プロローグ」

次回から本書を読んでいく導入として、プロローグを簡単に紹介しました。主人公のウォージントンはほとんど知られていない人物だと思いますが、「客観的な光景」への転向は何度読んでも印象的です。こういうエピソードを本の冒頭に持ってこられるところに、著者らによる調査・研究の広さと深さを感じます。【有賀】