2022年6月2日

演習(大学院ゼミ)の記録

【書評紹介】

Eric Huntington, Creating the Universe: Depictions of the Cosmos in Himalayan Buddhism. Seattle: University of Washington Press, 2020.

仏教における宇宙・世界表象というテーマに興味を持ちこの書評を選択しましたが、何よりも驚かされたのは、本書を作成するにあたって著者が、自身が有する10万もの図像が含まれるデータベースから画像を選び取っていることです。今学期行なっている専門書購読の、科学史における図像の役割というテーマについて再び考えさせられました。【S】

【専門書講読】

ロレイン・ダストン&ピーター・ギャリソン『客観性』(名古屋大学出版会,2021年)より

  • 「第1章 眼の認識論」

第1章は本書全体の理論的枠組みを説明する章で、必然的に抽象的な内容になっています。あえて一言でまとめるなら、本書は、認識的徳と科学的自己の歴史を科学アトラスの図像制作という実践に着目して論じるものだと言えるでしょう。これが具体的にどういう意味なのかは、各章を読んでいくことで理解できるようになると思います。【有賀】

【研究発表】

「原子力発電黎明期における嵯峨根遼吉の海外原子炉導入論」

《要旨》本研究では、日本の原子力黎明期における科学者の役割について、嵯峨根遼吉という物理学者に注目して記述する。先行研究において、原子力発電技術の日本での導入については、国際原子力体制の枠内での電力・通産連合と科学技術グループからなる二元体制の形成・展開過程として語られており、科学者の役割は補足的に捉えられていた。嵯峨根遼吉は、原子核を専門とする物理学者でありながら、原子力黎明期においては原子炉を導入する現場に身をおくという珍しい科学者だった。嵯峨根については、鳥瞰的な研究の中で部分的に言及されることはあっても、1つにまとめる研究は行われて来なかった。そこで本研究では、嵯峨根が海外原子炉導入に際して果たした役割を記述し、その言動の背景を彼の経験や証言、また関連人物の回想等から分析する伝記的研究を行う。本研究の寄与として、従来の二元体制論はマクロに見ればよい説明ではあるが、ミクロに見ると必ずしも語り切れない部分があることを指摘した。【猪鼻】