演習(大学院ゼミ)の記録
【書評紹介】
Giovanni Battimelli, Giovanni Ciccotti & Pietro Greco (tr. G. Giobbi), Computer Meets Theoretical Physics: The New Frontier of Molecular Simulation. Berlin: Springer, 2020.
分子シミュレーションの発展を扱っている本で、書評から判断する限り、手法それ自体の発達と制度的な面での展開の両方を追っているようです。特に、著者らがイタリア人なので、イタリアから見た歴史という性格を持っているように見えます。加えて興味深く感じたのは、本書が物理学史家と当該分野の研究者(第一人者)とサイエンスライターという3人の共著で書かれているという点でした。ほかでは聞いたことのない試みで、どのくらい成功しているのか興味があるところです。【有賀】
【専門書講読】
ロレイン・ダストン&ピーター・ギャリソン『客観性』(名古屋大学出版会,2021年)より
- 「第4章 科学的自己」
第4章は本書の核となる主張の提示と説明がなされていました。より抽象的という意味で難解な箇所が多い章ではありましたが、科学史上の一次文献・史料から検証されていた点が、本章を抽象理論に終始していない実感を読者に与えている理由なのではと思います。
特に「客観性」を「主観性」から検討するために、科学を実践する主体と科学的自己の18-19世紀における変容をエゴ・ドキュメントにおける「科学者のペルソナ」の内容の変容とラボノートにおける観察との境界の明確化といった2つの側面から検証するという方法は、個人的には説得力があるように感じました。科学史研究の方法論の立場から考えてみた場合、特に19世紀後半以降の前者は科学者自身の科学という実践についての認識、後者は科学という実践の進行過程を知りたいときに選択するものと思われますが、前者が後者にどれほど影響を与え得るものか、もしくはまったく与えないものとして捉えてよいのかといった点は気になるところです。
もちろん科学史に限らず、現在の一般的な科学と科学者、自然科学だけを指すとは限らない「科学的」という言葉の意味とイメージのルーツが19世紀後半にあったことを、本章から明確に伺えると思いますし、本章を踏まえて改めてそれらの現在的意味を考えることができるように思いました。今後自身の研究をすすめるなかでも何度かこの章に立ち返って、皆さんともまた議論してみたいです。【菱木】
【研究発表】
「リベラルな実在論の擁護」
《要旨》科学的実在論の議論について実在論側から説明戦略を修正する提案をおこなった。発表後のディスカッションでは、いくつか示唆を得ることができた。ひとつは、新しい説明戦略のもとで批判回避以外の魅力をうちだせるか、具体的には他の立場よりも科学実践や理論の変化をよりうまく説明できることを示すことが求められるだろうということ。もうひとつは、新しい説明戦略のもとでは実在論の真理概念を再考する必要があるということだ。発表者にとっては非常に有益なプレゼンになった。今後は他のゼミメンバーにより理解してもらえるように、もっとわかりやすい発表・プレゼンを心掛けたい。【佐々木】