2022年6月30日

演習(大学院ゼミ)の記録

【書評紹介】

Felipe Rojas, The Pasts of Roman Anatolia: Interpreters, Traces, Horizons. Cambridge: Cambridge University Press, 2020.

Review by Andy Merrills, Isis 112 (2021): 823-824.

題目のとおり、古代ローマ時代のアナトリア住民がもつ、アナトリア史観について、著者が研究した内容が記述されています。約2,000年前の古代人が、さらにさかのぼる古代史をどう捉えていたかを研究することに斬新性があり、壮大な歴史がある地ならではと感じました。それを紐解くには、現代考古学と比較される、直訳で考古愛を意味する著者が呼ぶところの古代「アーケオフィリア」が必要であり、理解する方法が扱われていますが、古代の学者と現代考古学者の遺跡に対する知見が必ずしも一致していないこともまた興味深いです。【松山】

【専門書講読】

ロレイン・ダストン&ピーター・ギャリソン『客観性』(名古屋大学出版会,2021年)より

「第5章 構造的客観性」

本章では、機械的客観性に次いで、十九世紀末、および二〇世紀初頭の論理学、数学、物理学、哲学で現れたもう一つのタイプの客観性である「構造的客観性」のあり方が論じられています。これは感覚等の認識システムに個人差があることを明らかにした当時の生理学・心理学の知見を背景に、伝達可能性の確保を図るものであり、機械的客観性の「強化版」と見なされています。著者は構造的客観性を「図像のない客観性」とも表現していますが、感覚に由来する知識を断念し、構造に伝達可能性を見いだす構造的客観性の精神は、路線図や棒グラフのような図表が体現しているように見えます。図表を「図像」に含めるかは一つの選択ではありますが、含めないとしても近しい事物であることはたしかであり、図像(アトラス)を主題に据える本書はこの点をより強調してもよかったのではないか、そうすれば本章が内容面で浮いているような印象も軽減されたのではないか、と個人的に思いました。【村山】

【研究発表】

「19世紀フランスにおける芸術的ポスター」

19世紀フランスの芸術的ポスターについて、主に当時の流行の様子と研究史の発表を行ないました。作品や作者だけに焦点を当てるような美術史学の伝統的な研究法だけでなく、当時の社会や文化、技術などに着目して多様な考察を行なうことができうる、芸術的ポスターの媒体としての魅力を伝えることができたと考えています。【S】