2022年11月24日

演習(大学院ゼミ)の記録

【書評紹介】

Naomi Oreskes & John Krige (eds.), Science and Technology in the Global Cold War. Cambridge, Mass./London: MIT Press, 2014.

Review by Kristine C. Harper, Isis 107 (2016): 439–440.

最近自分が取り組んでいる戦後の万博の研究に関連してこちらを取り上げました。冷戦期の科学技術をグローバルに扱った論文集であり、アメリカと物理に限定されない内容である点を評者は評価しています。しかしこれは裏返すと、英語圏における冷戦期の科学技術史研究が大いに偏っていたということでもあるように思われます。特に、本書で扱われている対象が米ソに加えて中仏の四カ国のみという事実からは、この分野がまだまだ開拓途上という印象を受けました。【有賀】

【論文分析】

Melinda Baldwin, “Scientific Autonomy, Public Accountability, and the Rise of “Peer Review” in the Cold War United States,” Isis 109 (2018): 538–558.

同僚評価としての「査読」を受けた科学がいかにして正統とみなされるようになったかについて論じた論文です。本論文は王立科学協会から査読が始まった…というようなMarton的な査読史ではなく、現代でもしばしばみられる同僚評価 peer review重視の傾向がなぜ生じたかについて焦点をあてており、査読システムへの信頼形成を検討する点で非常に社会学的であると感じました。事例としても、NSF・NIHの学術的助成が、アメリカの財政難や冷戦の緊張緩和に伴う説明責任と科学の自律性を担保しようとする動きに挟まれた結果、同僚評価の重要性を浮上させたとの記述などが興味深いものでした。

一方で、ゼミにて「同僚評価への信頼がなぜ海外の学術文化にも伝播していったのか」「2~3章で述べられた雑誌の同僚評価とファンディング組織の同僚評価を等価に考えられるか」といった課題が残っているとの指摘があったことから、本論文が説明しようとしている問いの射程については注意が必要だと感じました。【N】

【研究発表】

「スタンスと価値の観点からとらえた科学的実在論論争」

修士論文のメインの論証を簡潔に説明した。参加したメンバーからの質問として先行研究の評価と問の立て方の整合性、論証への応答の可能性が出された。どれも内容に本質的にかかわってくる部分だったので、修士論文執筆の材料になるいい質疑だった。【佐々木】