演習(大学院ゼミ)の記録
【専門書講読】
板橋勇仁「生物学と歴史哲学──京都学派における〈生物学の哲学〉」
(『昭和前期の科学思想史』(勁草書房、2011年[オンデマンド版2022年])第5章)
本論の主題は、京都学派の三人の哲学者、戸坂潤、西田幾多郎、田邊元であり、かれらはともに生物学の生命論的考察を参照することで自らの哲学思想(とりわけ歴史哲学)を生み出した人物として論じられていました。著者の課題は、三人が生物学をどのような学問として捉えたか、どのような関心・問題意識から生物学に関する考察を行ったかを明らかにすることであり、一言で言えば、単なる物質の機械的運動から人間社会が生じるという世界像を構築する際、その媒介項となる生命体の運動を扱う学問として、生物学が三人から注目されたようでした。【村山】
【書評紹介】
Jacob Darwin Hamblin, The Wretched Atom: America’s Global Gamble with Peaceful Nuclear Technology. Oxford: Oxford University Press, 2021.
Review by Jason Krupar, Technology and Culture 63 (2022): 548-549.
本書は、戦後の日本、ガーナ、イスラエル、パキスタン、イランといった発展途上国との間に結ばれたアメリカの原子力技術協定に着目し、それは良ければ「平和利用」、悪ければ「核武装」に繋がるギャンブルであったというストーリーを描いた一冊のようです。評者によれば、既存研究が、米国大統領府内の政治か、個別の国際的ケーススタディのどちらかに焦点を当てたのに対し、本書は両者を扱えているとしています。途上国に目を向けることは後回しにされがちですが、現代社会の地政学を捉える上で非常に重要であり、その中心にはやはりアメリカがあったということを改めて意識させられました。【猪鼻】
【研究発表】
「パブリックアート作品の美学的価値――ストックホルムの地下鉄駅作品を対象に」
パブリックアートの造形作品を美学的価値からいかに論じることができるのか、この研究内容をより理解できるように今回は、研究対象以外にも数点の作品を紹介しました。論点は、視覚的な美がどこまで作品に重きが置かれるのかであり、研究をより充実するためにカテゴリーが近い存在でもあるストリートアートも扱いました。ゼミ生からの質疑やコメントでは、扱う語の定義や、選択肢の提示をはじめ、作品と設置・展示場所との相関性を念頭にした助言などをいただき、研究を展開させるためには非常に有意義なものになりました。【松山】