2023年6月26日

演習(大学院ゼミ)の記録

【専門書講読】

板橋勇仁「下村寅太郎という謎──「精神史」としての科学思想史と「自己否定の自覚」 」
『昭和後期の科学思想史』(勁草書房、2016年)第3章)

本章で扱われているのは、科学思想史家・哲学者である下村寅太郎について、そして彼にとって科学思想史を構想することとは何であるのかに焦点をあてて論じられています。当初、下村は数学・科学の「形成」が関心の中心にあったが、それはやがて科学史の領域から文化的領域へと移っていったとあります。その過程に関心があり本章を選びました。特に数学の代わりに芸術が登場したことは印象的です。後半の節で展開されていることは、自分の研究内容にも関連することが多分にあり、新たな知見を得ることができました。【松山】

【書評紹介】

David N. Livingstone, Putting Science in Its Place: Geographies of Scientific Knowledge. Chicago: University of Chicago Press, 2003.

[デイヴィッド・リヴィングストン『科学の地理学:場所が問題になるとき』梶雅範、山田俊弘(訳)、法政大学出版局、2014年]
Review by J. Nicholas Entrikin, Annals of the Association of American Geographers 96 (2006): 440-442.

今回紹介した書評は、地理学的な視角によって科学知識の歴史とその伝播の様相を再検討し、近代科学はそれが行われる「場所」に紐づけられるとする著書を取り上げたものでした。原著は20年程前のものですが、数年前に発表された翻訳版の訳者解説でも指摘されているように、本書は近代以降の「科学的客観性」についての理解の再考を促す点で、また近年注目度が上がりつつあるフィールド科学や農学、災害科学といった「場所」との紐づけが不可欠と思われる分野の科学史学・科学社会学の進展において、今後も重要な先導役になるように思います。【菱木】

【研究発表】

カールスルーエ国際会議での議論の再検

参加予定の学会発表の練習を兼ね、研究中のカールスルーエ国際会議について進捗報告を行いました。発表中に言及した学説や概念(「構造」など)に関する質問に加え、研究の独自性に関してもコメント頂き、自分の研究を振り返る良い機会となりました。また質疑応答を通し、会議の議事録というテクストには独特のおもしろさがあるな、ということを改めて実感しました。授業後にも、紹介した先行研究や今後の展望などについて様々な質問・アドバイスを頂きました。これらを反映して無事発表を終えられることを祈ります。【澤井】