演習(大学院ゼミ)の記録
【専門書講読】
岡本拓司「戦う帝国の科学論――日本精神と科学の接合」
(『帝国日本の科学思想史』(勁草書房、2018年)第1章)
本章は、日本科学を日本の国体・日本精神の基盤の上に築かれる科学とし、戦時中の日本科学論の歴史的な展開を取り上げています。とりわけ主唱者の橋田邦彦に焦点を当て、講演で彼が説いた「科学する心」について解説し、他に田辺元、石原純、湯川秀樹といった人物にも着目しています。当時の科学論が様々な教育政策・制度との関連において発展している点はやや難解でしたが、非常に勉強になりました。また個人的には、橋田が仏教や儒学の古典に依拠し科学と宗教が相補的なものだと語っている点が興味深く、彼が制作した「科学する心」の映像がどのようなものであったのか気になりました。【澤井】
【書評紹介】
Luke Keogh, The Wardian Case: How a Simple Box Moved Plants and Changed the World. Chicago: University of Chicago Press; Kew: Kew Publishing, 2020.
Review by Stuart McCook, Isis 114 (2023): 442–443.
本書は、植物を安全に持ち運ぶための箱(ワーディアンケース)の発明が、それまで不可能だった植物の長距離移動を可能にし、植物貿易を一変させたあり方を描いています。どこかコンテナの発明が世界を変えた話を思わせるところがあるのと、わかりやすいストーリー性に興味を持ちました。【宋】
【研究発表】
「ヴェーバーの磁性論の形成過程」
19世紀ドイツの物理学者であるヴィルヘルム・ヴェーバーの磁性論について、主に研究の概要(背景、研究の目的、先行研究、史料の紹介)とヴェーバーが地磁気の研究に従事していた1832年から1844年までの彼の磁気観とその背景を報告しました。報告後、ヴェーバーにおけるアンペール理論の立ち位置や、本研究そのものの学術上の意義などについての質問がなされました。まだまだ研究は始まったばかりですが、引き続きヴェーバーの磁気観の変遷やアンペール理論の受容に関して史料の調査を進めていきたいと考えています。【滝澤】