2023年12月4日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

宮間純一「近代日本における災害のアーカイブズ化:行政組織による「災害誌」編纂事業」『国文学研究資料館研究紀要』第13号(2017年),19-38頁.

今回は、近代日本の災害誌の編纂事業をテーマとしたアーカイブズ学の論文を紹介しました。

本論文では近代の主たる災害誌の編纂がどのような目的意識によって、どのような主体によって作成されたかという問題関心によってそれぞれの編纂事業について検討することにより、災害誌編纂が災害の記録を残すという目的以上に、行政の説明責任や災害対応の正当化のための媒体として働き得たことを指摘しています。過去の史料や文献を分析対象とするとき、場合によってはアーカイブズ研究と歴史研究が混同されることもありますが、内容よりも作成目的に関心をもち、作成主体の行為の体現としてその史料について検討するという方法を取っていることが、本論文がアーカイブズ研究であることを示しています。

本論文の指摘を科学史研究の関心に近づけけると、災害誌の記録がその時々の災害研究の統計的データの要素になったり、科学者がその記録を根拠としてモデルを構築することがあることを考えたとき、その時の科学研究の方法以前に記録自体の”科学的信憑性”の評価をある程度行わないと、その当時の科学研究について正しく評価することはできないということになると思われます。そのように考えると、少なくとも災害をめぐる科学研究について、科学者とそのコミュニティ内の力量だけを見て語るのは適切ではないのかもしれません。

アーカイブス学の成果は、一次史料とそれに基づいた方法を取る人文社会科学系の分野全体に向けて、方法論的な問題提起に繋がる可能性があると思います。アーカイブス学の専門家であってもなくても、その動向には少なからず目を向けていくことが今後より必要になってくることを、本論文を通して改めて感じました。【菱木】

【書評紹介】

Thomas Haigh & Paul E. Ceruzzi, A New History of Modern Computing. Cambridge, Mass./London: MIT Press, 2021.

Review [a] by Victor Petrov, Isis 114 (2023): 219–220.
Review [b] by Martina Heßler, Technology and Culture 63(2022): 580–581.
邦訳もあるコンピューティング史の基本書(セルージ『モダン・コンピューティングの歴史』未来社、2008年)の新しいバージョンが出ていたことに気づいて取り上げました。単なる加筆ではなく、全面的な再構成になっているようです。書評が二つあったので読み比べてみたところ、Aが今日の状況に対応した教科書として高評価しているのに対し、Bはむしろ一つの歴史書として扱っているようで、メディア史との連携の仕方や欧米に限定されていることなどがやや否定的に述べられています。いずれにしても、これは邦訳されることを期待したいところです。【有賀】

【研究発表】

「日本における原子力施設の廃止措置の歴史とシステム工学的発想」

本日は、12月9, 10日に行われるSTS学会に向けての発表練習を行いました。発表では、日本における原子力施設の廃止措置の歴史的展開を通観し、その中で、システム工学的発想(「各要素を組合わせて最適な解体手順を求める」)が一貫して用いられてきたことを述べ、次世代革新炉の新設もその一貫性の中で捉えられるのではないかと主張しました。質疑応答では、「システム工学」という用語は、多義的で中身を想像しにくいことに改めて気付かされ、今後も気を付けて使っていくべきだと思いました。関連研究についても質問をいただき、それに答えることはいつもいい訓練になっています。改善点も得られましたので、今週末の発表に向けて修正していきたいと思います。【猪鼻】