演習(大学院ゼミ)の記録
【専門書講読】
D.R. ヘッドリク『進歩の触手:帝国主義時代の技術移転』(原田勝正ほか訳)日本経済評論社、2005年.
第10章 専門家と企業
『進歩の触手』の第10章「専門家と企業」では、帝国主義時代における技術移転と専門家および企業の役割について論じています。たとえば、小規模農民や現地の企業がどのようにヨーロッパの技術文化を取り入れ、自分たちの状況に適応させたか、そしてそれに対する政府の障害について検討しています。専門家の役割について、西欧の技術文化を獲得した技師が技術文化を普及したが、政府や企業の差別により昇進が難しかったことが述べられています。また、インドの紡織業、海運業、造船業、鉄鋼業の各事例もとりあげられ、成功と失敗の要因が詳述されています。
全体として、本章は植民地時代の低開発国における経済活動と技術発展の困難と、それに対する抵抗や適応の様子をよく描いており、政治の重要性を示唆しています。【王】
【書評紹介】
Sonja Petersen, Vom “Schwachstarktastenkasten” und seinen Fabrikanten: Wissensräume im Klavierbau 1830 bis 1930. Münster: Waxmann, 2011.
Review by Stefan Krebs, Icon 18 (2012): 253–255.
本書は1830年から1930年にかけてピアノ製造が工芸から工業に移行した時期においてベーゼンドルファーとグロトリアンを例に挙げ、それぞれどのような知識の記録、共有、研究が行われたかを分析している。評者は著者が採用したいくつかの概念や考察は不完全であると評するが楽器製造に関わる専門家にとって貴重な一冊であると述べている。日本でピアノ製造が本格化するのが1900年以降だが最初から工業を前提として発展したため、本書を活用して1920~1930年代におけるピアノ製造の工業知識の在り方に関して日独比較が行えたらと思います。【神村】
【研究発表】
「長岡半太郎の語る「数理物理学」」
今回は最近の研究内容というわけではありませんが、博論の一部分に入れることを想定している、数理物理学についての1890年代における長岡の認識に関する分析内容をお話しました。1900年代前半は、長岡が土星型原子模型や地震・津波等について数理物理学研究を展開する時期で、それらの研究の学説史的評価のためにも、直前期における長岡の認識を把握することは重要であると考えています。
これは2021年度の科学史学会で口頭発表を行った他はアウトプットしていない内容でしたので、自分自身の研究関心を振り返る良い機会になりました。【菱木】