演習(大学院ゼミ)の記録
【専門書講読】
D.R. ヘッドリク『進歩の触手:帝国主義時代の技術移転』(原田勝正ほか訳)日本経済評論社、2005年.
第5章 都市、衛生および隔離
ヘッドリク『進歩の触手』5章「都市、衛生および隔離」を担当し、宗主国ヨーロッパが植民地の上下水道整備を始めとする衛生管理と疫病対策にどのように対応したかに関してまとめました。
本章では「宗主国」としてイギリスとフランス、「植民地」として香港(東アジア)、カルカッタ(南アジア)、ダカール(アフリカ)が比較されており、衛生問題への価値観の違いと人種間対立がもたらす技術移転の遅れや問題意識の齟齬について言及されていました。
本文でも述べられた内容ですが、発展に伴う衛生管理問題は既にヨーロッパ諸国が経験した事柄であるが、その教訓が植民地支配において反映されなかったことは文化の違いがもたらす大きな損失であるといった記述から、世界史における各文化圏の思想の違いが紛争をもたらし続けた流れが「宗主国と植民地」といった一定以上ミクロな単位においても起き続けていることを感じました。【工藤】
【書評紹介】
※今回はなし
【研究発表1】
「美的経験としての見るということ:ストックホルム地下鉄芸術作品を事例に」
修士論文で扱う「中動態」と「雰囲気」の2つの概念の説明と利点を中心に発表をしました。研究対象で取り上げる地下鉄芸術作品を〈見る〉ということはどういうことなのか。中動態については前回の発表を元にして別の論者の定義を紹介しました。雰囲気の概念は今回新たに提示したもので、その説明の他に修論において2つの概念がいかに結びつけられるかを念頭において発表しました。ゼミ生の質問から、〈見る〉については、研究対象の作品と類似した条件下にある他の作品などとどう区別できるのかを検討する点や雰囲気の概念が示す理論では詳細に説明すべき点がまだあるなど議論を通し多くの課題に気づかされ、非常に有意義な時間となりました。文献の読解を引き続き進め、論文に生かしていきたいと思います。【松山】
【研究発表2】
「70年代初頭の日本における「科学」と「非科学」の選択:伝統医療と欧米式医療の立場変遷」
「70年代初頭日本における正統医学と非正統医学」についての発表をしました。修士論文では高度成長期の終焉期における「医学」の需要について扱うことを考えているため、ずっと「科学」「医学」の扱われ方や「Science」に包含されない「Medicine」、正統医学、非正統医学を筆頭に、伝統医学、東洋医学、漢方医学といった「医学」の表記の多様さ、定義が曖昧に同一化される「医療」という概念など、考証すべき事柄が多く、発表内で指摘がありましたが修士論文で扱い切れる内容ではなくなっていた問題がありました。
そこで、これまでのアプローチであった「社会学的に医学を考証する」手法に加えて、発表内で提案された「Scienceの立場からMedicineを論考する」という手法を取り入れることを今後の課題としました。そもそも「科学」という言葉自体が社会の中でどう使われているか、といった新しい視点から社会における医学の在り方を検証していきたいです。【工藤】