2024年10月21日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

Evan Hepler-Smith, “”Just as the Structural Formula Does”: Names, Diagrams, and the Structure of Organic Chemistry at the 1892 Geneva Nomenclature Congress,” Ambix 62 (2015): 1–28.

この論文の主題であるジュネーブ命名法会議とは、有機化学の命名法を議題とする1892年に実施された国際会議です。本論文はこの会議について、これが開催された背景、その議論内容や意義を論じています。著者は、とりわけこの会議の成果は、会期中に定義された構造式と名称とを厳格にマッピングする規則にあると主張しています。

未公刊史料よりも既に出版された史料を多く用いていること、また具体的な問いへの答えを導くというよりも、会議に至る経緯も含めた論文全体での叙述それ自体に主眼を置いていることにこの論文の特徴があったように思います。ゼミ中に指摘があったように、先行研究批判にもう少し紙幅を割くべきと思いましたが、全体として研究関心ど真ん中の論文で、おもしろく読みました。【澤井】

【書評紹介】

Camila Gatica Mizala, Modernity at the Movies: Cinema-going in Buenos Aires and Santiago, 1915–1945. Pittsburgh: University of Pittsburgh Press, 2023.

Review by Cecilia Maas, Technology and Culture 65 (2024): 1012–1013.

“Modernity at the Movies Cinema-going in Buenos Aires and Santiago, 1915-1945”は、チリ大学科学史学部准教授のCamila Gatica Mizalaによって執筆された書籍です。本書は、1915年~1945年までの、ブエノスアイレスとサンディエゴの映画館の外観や内装・設備、映画ビジネス上の意思決定、政府自治体からの倫理・表現規制、映画鑑賞に関しての人々のコミュニケーションなどの記録をもとに、近代における映画の上映と観客による受容を多様な側面から論じた書物です。20世紀初頭の映画が「近代の象徴であり、かつそこからの逃避を提供した」という二律背反であったという著者の主張や、20世紀前半をとおして映画が単なる珍しい映写技術ではなく芸術と認められるようになったという記述は、他の映画史の本でもしばしば書かれていたのではないかと思います。一方で本書がブラジルやチリの近代化を対象にしているところは、類書にない特徴です。考えてみれば1915年~1945年というのは、第一次世界大戦勃発直後から第二次世界大戦終結までの30年ですね。2つの大戦をはさんで南アメリカ大陸地域がどのように科学・技術史上の近代化を進めていったのかという点は、未踏の研究課題で探求する価値がありそうだと感じました。【天野】

【研究発表】

「インターネットにおける中国「科普」の現状」

今回の研究発表では、修士論文全体の構成、または主に第二章の内容についてゼミの皆さんと議論しました。第一章では、中国における「科普」の歴史を考察し、科学コミュニケーションがいまだ実現されていない点について論じます。第二章では「なぜ科学コミュニケーションは未完成なのか」という問題意識を持ち、メディア考古学のアプローチを参考にしながら、「科普」の現前方式という分析視角を提案し、「科普の脱文脈化」という結論を導き出します。いただいた意見を参考に、今後はメディア考古学を説明する具体例の妥当性について再検討したいと考えています。また、修士論文の提出に向け、引き続き努力します。【徐】