2024年12月2日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

Aimee Slaughter, “Nuclear Imaginaries and Power in Oppenheimer,” Technology and Culture 65 (2024): 319-332.

本日は、2023年に公開されたクリストファー・ノーランの映画『オッペンハイマー』に関して、文化遺産の歴史家が執筆した学術エッセイを読みました。『オッペンハイマー』は、マンハッタン計画の中心人物であった物理学者であるロバート・オッペンハイマーの偉大な業績を伝える映画のようにみえ、そこには科学者の政治的な側面が現実に即して描かれている一方で、ロス・アラモスの人々の協力や女性科学者たちの活躍など、いくつかの視点が欠落している、と著者は指摘していました。また、『オッペンハイマー』により核開発関連の記事やドキュメンタリー、文化遺産ツーリズムが活発に提供されるようになったことで、人々の核兵器・核開発に対する認知を変えるのに大きな影響を与えるであろうと結論づけられていました。ゼミ中に指摘があったとおり、映画の原作本を含め背景となる知識がないと何が描かれているか分からないこと、また『オッペンハイマー』を観ていないと何が書いてあるか理解しづらいという点で、読者を選ぶエッセイだと感じました。今後論文を書いていくうえで、幅広い読者に向けてわかりやすく書くにはどうしたらよいか、参考にしたいと思います。【天野】

【書評紹介】

Catherine M. Jackson, Molecular World: Making Modern Chemistry. Cambridge, MA: MIT Press, 2023.

Review by Ursula Klein, Isis 115 (2024): 668-669.

本書は、科学史家で化学者でもあるキャサリン・ジャクソンが書いたもので、これまで十分に研究されてこなかった19世紀の有機合成化学の歴史を扱っています。中でも、(1)化学実験室の物質文化と「ガラス器具革命」による変容、(2)実験器具・技術・手法、(3)科学・技術・産業、(4)実験と理論の関係という4つのトピックに焦点を当てているようです。なお評者である化学史家ウルスラ・クラインは、本書を比類ない歴史学上の功績として絶賛しています。有機合成化学の歴史を記述するだけでなく、実験と理論の関係などペーパーツール概念にも関わるような論点が提示されているらしく、内容が非常に気になっています。注文したので読むのが楽しみです。【澤井】

【研究発表】

「画像⽣成技術による美術的創作労働の変化」

今回の発表は、理論的枠組みと今後の研究方向を中心としたものです。本研究は、AIの介入が創作作業の本質をどのように変えるのか、またその変化がデザイナーの労働に与える影響を明らかにすることを目的とします。特に、非物質的労働の観点を取り入れて、AIがゲーム2DCGデザイナーの労働を「物理的な制作」から「記号や意味の創造」という非物質的労働に移行させる仮説を提起します。また、画像生成AI技術を複製技術と比較し、AIが「生産」と「創造」の境界をどのように曖昧化するのか、さらに労働主体性の再定義にどのように関わるかを考察します。

今後の研究では、インタビューを用いて、AIがデザイナーの創造労働に与える具体的な影響を分析します。特に、AIが生成した素材の評価や選択プロセスにおけるデザイナーの役割を明らかにします。今回の発表中に議論した創造性とは何か、半構造化インタビューの妥当性と応用可能性とAI技術が創造力に与える影響なども検討します。【王】