2024年12月23日

演習(大学院ゼミ)の記録

【論文分析】

Sean Weiss, “Making Engineering Visible: Photography and the Politics of Drinking Water in Modern Paris,” Technology and Culture 61 (2020): 739771.

19世紀パリの水道建設で、運ばれてくる水のクオリティと環境破壊に疑問を持った一般大衆は、為政者の写真の使用によって議論を鎮静化された。水道を自然ゆたかなピクチャレスク様式で撮影した写真は、水道開発による自然破壊をなかったように見せることに成功した。また、水質は地質学的に豊かであると印象操作された。このように、水道の土木技師ベルグランは写真を用いて世論を懐柔することに成功した。またパリやウイーンの万国博覧会では、パリの水道システムは国際的な評価を得る一助となった。発表者の疑問としては、写真でだまされなかった人もいたと思うが、19世紀に遡ってアンケートをとるわけにもいかず、写真の説得力がどのくらい強かったかはすべて明らかになったわけではない。有賀先生のご指摘で、各節のタイトルには言葉の綾で二重の意味が暗示されていることがわかった。また、本論文の優れた点として、数多くの先行研究とソースを用いて執筆されたものであるとわかった。【武笠】

【書評紹介】

Harvey J. Graff, Undisciplining Knowledge: Interdisciplinarity in the Twentieth Century. Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2015.

Review by Michael Kimaid, The American Historical Review 122 (2017): 483–484.

今回は、学際性というテーマで20世紀のビッグサイエンス下における様々な分野横断的研究のケーススタディを行った著書の書評を紹介しました。歴史研究では決してメジャーではない一方、教育学や社会学、実践的な場で既に議論が行われていたテーマということで、書評が発表された場が多岐にわたっていました。ただ、本書に関してはあくまで歴史研究であるという評価はほぼ共通しており、評者たちは、そこから見出される20世紀以降の科学(自然や人文を問わない)像の捉え方について見解を述べているようにみえます。現代も用いられる概念を歴史研究のテーマとすることには様々なリスクが考えられますが、そのようなテーマでこそ歴史家の真価が問われるのかもしれないと気づかされました。【菱木】

【研究発表】

「伊方原発訴訟松山地裁審議過程における被告(国)側の原発安全論の主張」

本日は、博士論文第7章の内容である、「伊方原発訴訟松山地裁審議過程における被告(国)側の原発安全論の主張」について発表しました。この内容をゼミで発表するのは初めてで、情報量が多く分かりずらいところもあったと思いますが、たくさん質問をいただけてよかったです。特に、原発について専門でない方からのご感想・ご質問から、研究内容をどのように受け取ったのかについて直接感じることができてよかったです。内容面では、「科学的知識」と「技術的知識」をどのように繋げていけばよいのかを、引き続き考えていきたいと思います。【猪鼻】